孤独の声は、きっと誰かに届く -町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』感想レビュー【本屋大賞受賞作】

BOOK

こんにちは、モチです

今回紹介する1冊は…

町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」です

本屋大賞受賞作『52ヘルツのクジラたち』を読了

孤独とつながりを描いた物語から、返事がなくても声を発し続ける意味を考えさせられた

「52ヘルツのクジラ」って?

世界で最も孤独なクジラを知っていますか?

「52ヘルツのクジラ」という生き物がいます。  

その鳴き声の周波数は、他のクジラたちとは違う「52ヘルツ」。  

だから、どんなに大きな声で叫んでも、その声は仲間には届かず、返事も返ってきません

この小説『52ヘルツのクジラたち』は、そんな“届かない声”を抱えた人たちの物語です。  

作者は、町田そのこさん。

本作は**2021年本屋大賞で大賞を受賞**し、多くの読者の心を震わせました。  

けれどこれは、決して派手なドラマや奇跡の連続ではなく、むしろ静かな、だけど深く沁み込む物語です。

あらすじ

主人公・貴瑚は、心に深い傷を抱え、海辺の古い一軒家に移り住みます。  

そこで出会ったのは、声を発しない少年。

「ムシ」と呼ばれていた彼もまた、言葉にできない孤独と痛みを抱えていました。  

二人はゆっくりと距離を縮めていきますが、その先にあるのは、ただの優しさだけではなく、苦く、痛く、そして確かな温もりでした。

率直な感想

この小説は、孤独の描写があまりにリアル。  

「声を上げても返事がない」「助けてと言えない」「そもそも自分の声が届くと思えない」

そんな気持ちを、経験したことがある人なら胸が痛くなるはず。

けれど、孤独を抱く人がより強く共感でき、希望を抱かせてくれる一冊でもある。

ネタバレを含まないので、物語については伏せますが、ここからこの小説を読んでいて特に私が強く思ったことを綴ります。

おそらく、声にしたくても喉の奥につっかえて声が出ず、「助けて」の4文字を口にできない人は想像以上に多く存在するんだと思う。

一方で恵まれた環境に置かれた人々は、その声に気付くのが難しくても、”意思表示が難しく今もどこかで苦しみ続けている人がいる”という事実を知っておくだけでも大事なんだと思う。

また、どれだけ失いたくないと思っていても、

いずれはなにかを失うか手放す場面が多くでてくるわけで、

それでいて結局のところ、一度なにかを失った人間は、誰にも言えない痛みや哀しみを抱えた人間を知る手がかりを獲得でき、

他の誰かに「あなたは独りじゃない」と気付かせてあげるだけの手段を知っている。

自分という人間を、弱く、独りでは生きていけないと思える人ほど、孤独を抱える誰かを救えるだけの強い力を持つ、ただ1人であれるのだと思う。

この小説は孤独から救われるような温かくなる場面もあり、その対比がとても美しい物語を演出しているんだと思う。

そしてこの小説の読後には、「生きていてよかった」と思える瞬間があった。

心に残った言葉 – ことばのしおり –

ことばのしおり①「52ヘルツのクジラ」

まずはこのクジラが実在するという事実に驚かされた。

広大な海の奥で、仲間を現在進行形で探し続けているクジラがいて、

そして誰かが52ヘルツの声を聞き取ってくれると信じて声を発し続けていることにとても胸を打たれた感覚になった。

ことばのしおり②

水疱瘡やおたふく風邪と同じでな、小さな子どもの内に覚えておかきゃならんことを大きくなって知るのは、ものすごくしんどいものよ。

小さな頃から挫折や痛みを味わう、乗り越え方を知るという積み重ねが人を大きくするのだと思う。

ことばのしおり③

ひとには魂の番がいるんだって。愛を注ぎ注がれるような、たったひとりの魂の番のようなひと。あんたにも、絶対いるんだ。

孤独だと感じるその人でも、今その時出会えていなくても、必ずどこかであなたを見つけ出してくれる1人が現れるんだと思わせてくれる台詞。

“魂の番”という言葉のインパクトにも胸が躍った。

この本をおすすめしたい人

もちろんこの小説はぜひみなさんに読んでいただきたいのですが、中でもおすすめしたいのは…

孤独や生きづらさを感じている人  

心が疲れている人  

誰かとつながる勇気が欲しい人  

温かい読後感のある小説が好きな人  

本屋大賞受賞作から読み始めたい人

まとめ

『52ヘルツのクジラたち』は静かで、優しくて、そして強い物語。  

返事がなくても、声を発し続けること。  

手を伸ばし続けること。  

その小さな行動が、いつか誰かの命を救うかもしれない。

返事がなくても、手を伸ばすことをやめない。  

それが、生きていくということかもしれない。

本を閉じたあと、誰かの名前を思い出し、その人に声をかけたくなる――そんな一冊。

ありがとうございました。

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