2017年に日本で刊行された1冊の小説が、
7年後、イギリスで45万部を売り上げました。
柚木麻子『BUTTER』。
世界37ヵ国で翻訳が決定し、累計100万部を突破——
そして英国では、
日本人初となる快挙を2つも成し遂げています。
この記事では、
年に30冊以上読む書評ブロガーがあらすじ・モデルとなった実話・
タイトルの意味を、結末に触れずに解説します。
📊 30秒でわかる『BUTTER』
📖 内容:3人の男性を殺害した容疑の女性を、記者が取材する物語
⚡ モデル:首都圏連続不審死事件(実在の事件)
🌍 実績:37ヵ国で翻訳・世界累計100万部・英国45万部超
🏆 受賞:英国で3冠(うち2つは日本人初)
※本記事は結末・事件の真相に触れないネタバレなし方針です。
あらすじ(ネタバレなし)
週刊誌記者・町田里佳。
彼女が追うのは、婚活を通じて出会った男性たちから金銭を得て、
3人を殺害した容疑で逮捕された女性——
梶井真奈子(カジマナ)です。
世間はこう報じました。
「若くも美しくもない女が、男たちの金と命を奪った」と。
里佳は親友・伶子の助言をもとに、
東京拘置所での面会を取り付けます。
しかしカジマナは、
取材に応じる条件としてある要求を出しました。
🧈 その要求とは-「バターを使った料理を作ること」
カジマナは食にこだわりを持つ人物でした。彼女は里佳に料理を命じ、その感想を語らせる。そうして取材のはずが、いつのまにか主導権を奪われていきます。
新潮社の公式サイトでも紹介されている、カジマナの印象的な台詞があります——「どうしても、許せないものが二つだけある。フェミニストとマーガリンです」。
カジマナの指示通りに食べ続けるうち、
里佳の体重は増えていきます。
しかしそれは同時に、
彼女が社会の呪縛から解き放たれていく過程でもありました。
取材者と被取材者。
その関係は、少しずつ反転していきます——。
累計発行部数
決定
国内のみで
「どうしても、許せないものが二つだけある。フェミニストとマーガリンです」——この一言に、全てが凝縮されています。
モデルとなった実在の事件
本作は「首都圏連続不審死事件」をモチーフにしています。
これは著者自身も公言している事実です。
2009年に発覚した事件で、婚活サイトなどで知り合った複数の男性から金銭を得て、そのうち3人を殺害したとして木嶋佳苗死刑囚が起訴され、死刑判決が確定しました。
当時大きな注目を集めたのは、事件の内容だけではありません。報道された彼女の容姿と、法廷での堂々とした態度が、社会に強い衝撃を与えました。
ここが重要な点です。
世間が驚いたのは
「なぜあの容姿の女性に、男性たちが金を渡したのか」でした。
つまり——
事件そのものより、
「女性の見た目と価値」に対する社会の視線が露わになったのです。
💡 著者が本当に書きたかったこと
柚木麻子さんは、インタビューでこう語っています——「私がこの小説で一番書きたかったのは事件の真相ではなく、”料理をする女性像”についてだった」。
つまり本作は事件の再現ではありません。事件をきっかけに露わになった「女性への視線」そのものを、正面から扱った小説です。
そのため読者は、
「自分もカジマナを、あの目で見ていたのではないか」
と途中で違和感に気づきます。
なぜ人気なのか|海外の反応と英国3冠の内訳
2024年に英訳版(ポリー・バートン訳)が刊行されると、
海外の反応は想像を超えるものでした。
イギリスで異例の反響を呼び、
書店の店頭を席巻します。
① Books Are My Bag Readers Awards 2024
Breakthrough Author部門 受賞(読者投票で決定)
② Waterstones Book of the Year 2024
大手書店チェーンが選ぶ「今年の一冊」
翻訳小説の受賞は極めて珍しく、日本人初
③ The British Book Awards 2025
Debut Fiction部門 受賞
こちらも日本人初の快挙
とくに②のWaterstones Book of the Yearは、
書店員と読者が選ぶ賞です。
翻訳作品が選ばれること自体が異例であり、
「イギリスの読者が、自分たちの物語として読んだ」ことを意味します。
なぜ国境を越えたのか
この作品が扱うテーマは、日本固有のものではありません。
🌍 ルッキズム——見た目で人の価値が測られること
🌍 女性への役割期待——「こうあるべき」という圧力
🌍 食と身体——太ることへの罪悪感
🌍 働く女性の孤独——職場での立ち位置
これらは世界中の女性が抱えている問題です。
だから翻訳を通じても、
力を失わなかった。
さらに、この作品には圧倒的な武器があります——
料理描写です。
バターをたっぷり使った料理の描写は、
言語を越えて読者の食欲を刺激します。
重いテーマを、美食が支えている——
この構造が、多くの読者を最後まで運びました。
「つまらない」と言われる3つの理由
世界で100万部を売り上げた作品ですが、
「つまらなかった」という感想も確実に存在します。
年に30冊以上読む書評ブロガーとして、
賛否の分かれ方を整理しました。
購入前の判断材料にしてください。
理由1:料理描写が長いと感じる
本作の魅力である料理描写が、
そのまま欠点になる場合があります。
バターを使った料理が繰り返し登場し、
その味わいが丁寧に描かれる——
物語の展開を求める読者には
「なかなか進まない」と感じられます。
✔︎ 逆に言えば:この料理描写こそが、海外で評価された最大の要素です。重いテーマを美食が支える構造——ここを楽しめるかどうかが、最初の分岐点です。
理由2:事件の真相を期待すると肩透かしを食う
「実在の事件がモデル」と聞いて、
ミステリーとして読み始める人がいます。
そして落胆します。
本作は事件の謎を解く物語ではありません。
著者自身が「書きたかったのは事件の真相ではない」と明言している通り、
焦点は別のところにあります。
⚠️ 期待値の設定が重要です
・ミステリーとして読む → おそらく物足りない
・社会と女性を描いた小説として読む → 強く刺さる
同じ本でも、読む姿勢で評価が180度変わります。
理由3:主人公の変化に共感できない
主人公・里佳は、カジマナと接するうちに変わっていきます。
食生活が変わり、体重が増え、
価値観が揺らぐ——。
この変化を「解放」と読むか「取り込まれた」と読むかで、
印象は大きく分かれます。
とくに「自分は流されない!」という自信がある読者ほど、
里佳の変化を受け入れにくい傾向があります。
それでも、英国3冠を獲った作品です
賛否が割れることは、この作品の欠陥ではありません。
むしろ、そこが評価された理由でもあります。
🏆 客観的な事実を並べます
・全世界累計100万部/37ヵ国で翻訳決定
・イギリス国内だけで45万部超
・Waterstones Book of the Year 2024受賞(書店員と読者が選ぶ賞・日本人初)
・The British Book Awards 2025 Debut Fiction部門受賞(日本人初)
とくにWaterstonesは読者の投票が反映される賞です。つまり——イギリスの一般読者が、自分たちの物語として選んだということになります。
好き嫌いが分かれる作品ほど、強い支持も集めます。
万人受けする物語は、誰の人生も変えません。
合う人・合わない人の判断基準
| 合う可能性が高い人 | 合わない可能性が高い人 |
|---|---|
| 食の描写を味わうのが好き | 展開の速い物語が好き |
| 社会や価値観を考えたい | 事件の真相が知りたい |
| 「見た目」で判断された経験がある | スカッとする結末を求める |
| 読後に考え込むのも読書だと思う | 明快な答えが欲しい |
左が3つ以上当てはまるなら、
読む価値があります。
右が3つ以上なら、
無理に読む必要はありません。
💡 迷ったら、読み放題で試すという手もあります
1,045円を払って「合わなかった」となるより、定額サービスで試して、合わなければ次の本へ——このほうが失敗がありません。
タイトル『BUTTER』の意味
なぜ「バター」なのか。
この問いには、いくつもの答えが重なっています。
🧈 ①カジマナが愛したもの
彼女はマーガリンを嫌い、バターを愛しました。「本物」への執着を象徴します
🧈 ②禁じられた快楽
バターは高カロリーで、多くの人が「コントロールすべきもの」と考えます。欲望と罪悪感の象徴です
🧈 ③豊かさと解放
里佳がバターを味わうことは、自分に許可を出すことでもあります
つまり——バターとは「女性が自分に禁じてきたもの」の総称なのです。
食べたいものを食べる。太ってもいい。
誰かの理想に合わせなくていい。
その解放が、バターという1語に込められています。
こんな人におすすめ
✔︎ 話題作を追いかけている人
→ 世界37ヵ国・100万部・英国3冠。いま最も語られている日本文学です
✔︎ 実話がモデルの小説が好きな人
→ 事件の再現ではなく、事件が映し出した社会を描いています
✔︎ 「見た目」で判断された経験がある人
→ ルッキズムを正面から扱った作品です
✔︎ 美食小説が好きな人
→ 料理描写が圧巻。読むと確実にお腹が空きます
✔︎ 働く女性
→ 職場での立ち位置、周囲の期待——里佳の葛藤に共感する場面が多いはずです
・実際の事件の詳細を知りたい人(本作はフィクションです)
・スカッとする勧善懲悪を求める人
・重いテーマを避けたい人
ただし——「重そう」という先入観だけで避けるのは、もったいない作品です。料理描写のおかげで、想像よりずっと読みやすくなっています。
読み終えたら次に読みたい3冊
『BUTTER』が刺さった方へ。
テーマが響き合う3冊を選びました。
『世界99』村田沙耶香 / 集英社
あらすじ:「性格のない人間」如月空子。
女性の負担を代わりに担う「ピョコルン」が存在する世界で、
彼女の人生が描かれます。
👤 こんな人におすすめ:『BUTTER』の社会批評性が刺さった人/女性への圧力を描く物語を求める人
🔗 『BUTTER』との共通点:女性に課せられる役割への問いという主題が共通します。より寓話的・過激な形で描かれます。
受賞作
2026
大長編
究極の思考実験。読み終えたあと、言葉を失う人が続出しています。
『傲慢と善良』辻村深月 / 朝日新聞出版
あらすじ:婚約者の坂庭真実が突然姿を消しました。
彼女を探すため、
西澤架は真実の過去と向き合っていきます。
👤 こんな人におすすめ:『BUTTER』のルッキズム描写が刺さった人/30代前後の人
🔗 『BUTTER』との共通点:「見た目」と「価値」の関係を扱う点が共通。婚活という現代的な文脈で描かれます。
公開済み
撃ち抜く
完結
「自分は善良だと思っている人ほど傲慢である」——読者自身を撃ち抜く洞察。
『流浪の月』凪良ゆう / 東京創元社
あらすじ:10歳の更紗と19歳の文が過ごした2ヶ月は、
世間から「誘拐事件」と呼ばれました。
15年後、二人は再会します。
👤 こんな人におすすめ:『BUTTER』の「世間の目」というテーマが刺さった人/静かな物語が好きな人
🔗 『BUTTER』との共通点:世間が決めた物語と、当事者の真実の乖離——この構造が『BUTTER』と重なります。
受賞作
実写映画
2度受賞
事実と真実は別のもの。善意という名の暴力に、静かに気づかされます。
著者・柚木麻子について
『BUTTER』は2017年の発表当時から高く評価されていましたが、
世界的なヒットは2024年の英訳版刊行以降です。
刊行から7年を経て、
国境を越えました。
著者自身が本作を「現時点での最高傑作」と位置づけています。
他の代表作に『ランチのアッコちゃん』
『あいにくあんたのためじゃない』などがあり、
働く女性の日常と葛藤を描くことに一貫した関心を持つ作家です。
安く読む・気軽に試す方法
文庫版は1,045円(税込)。
決して高くはありませんが、
「重そうで買うか迷う」という方もいるはずです。
そんな場合は、
読み放題や聴き放題で試すという選択肢があります。
合わなければ次の本へ——
この気軽さが、読書のハードルを下げてくれます。
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本作の核心はカジマナと里佳の対話にあります。拘置所での面会、交わされる言葉の駆け引き——声で聴くと、カジマナの支配力がより生々しく伝わります。
また料理描写も、朗読で聴くと音と質感が立ち上がってきます。バターが溶ける音、パンを焼く匂い——想像力の使われ方が変わります。
よくある質問
Q. 実話ですか?
A. 実在の事件をモチーフにしたフィクションです。首都圏連続不審死事件が題材ですが、事件の再現ではありません。著者は「書きたかったのは事件の真相ではない」と語っています。
Q. 事件を知らなくても読めますか?
A. まったく問題ありません。事件の予備知識は不要です。むしろ知らないほうが、先入観なく読めるかもしれません。
Q. グロテスクな描写はありますか?
A. 殺人事件が題材ですが、猟奇的な描写が主眼の作品ではありません。中心にあるのは対話と料理です。
Q. なぜ海外でそんなに売れたのですか?
A. ルッキズム、女性への役割期待、食と身体——扱うテーマが世界共通だからです。加えて料理描写の力が、言語を越えました。
Q. 文庫と単行本、どちらがいいですか?
A. 文庫(1,045円)で十分です。持ち運びやすく、価格も手頃です。
Q. 「つまらない」という感想も見かけますが?
A. 賛否は確実に分かれます。主な理由は①料理描写が長い ②事件の真相を期待すると肩透かし ③主人公の変化に共感できないの3つ。ただし読む姿勢で評価が180度変わる作品でもあります。
Q. 読むとお腹が空くって本当ですか?
A. 本当です。バターをたっぷり使った料理描写が繰り返し登場します。夜中に読むのは危険かもしれません。
まとめ
📌 『BUTTER』とは
📖 内容:殺人容疑の女性を取材する記者が、逆に支配されていく物語
⚡ モデル:首都圏連続不審死事件(フィクションとして再構成)
🌍 実績:37ヵ国翻訳・世界100万部・英国45万部超
🏆 受賞:英国3冠(うち2つは日本人初)
🧈 タイトルの意味:女性が自分に禁じてきたものの象徴
⚖️ 賛否:料理描写の長さ・期待値のズレで評価が分かれる
💰 価格:新潮文庫1,045円(税込)
この小説を読み終えたあと、
多くの人が自分の中の偏見に気づかされます。
「若くも美しくもない女が」——
世間がそう報じたとき、私たちは何を思ったか。
その問いが、最後まで残り続けます。
そして不思議なことに、読み終えると無性にバターを塗ったトーストが食べたくなるのです。
変わって感じられます。
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世界が読んだ物語を、まだ読んでいないのはもったいない。


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